vol 1484 2008.04.16
● 30年経っても古くない―ある本との久々の出合い
フレネのスペースにも自宅にも本を置くスペースがなくなってきた。これはもう膨大な蔵書を整理するしかない・・・。一念発起して自宅の蔵書を整理していたら、懐かしい本が出てきた。
タイトルは『教育の実験』(私家版 中村 圭吾著)を発見!30年ほど前のことをふつふつと思い出した。ぼくが主宰していた授業作りのサークルに参加していたNさんの紹介で中村さんに出会った。当時の中村さんは、大学院で心理学を学びながら学習塾『ありの教室』を主宰。学部の学生時代からかれこれ5年ほど、子どもの学びに関わっていた。確か、本郷の旅館(廃業した親戚から借りているとお聞きした)を学習塾に仕立て、各部屋で個別指導も可能だったように思う。夏の暑い日に出会い、著書をいただいた。当時のぼくは、故遠山啓先生(東工大教授、数学教育協議会委員長)の紹介で明星学園小学校に勤務し、怖いものなしの毎日・・・。とにかく、授業作りを楽しむ毎日だった。
今、再び、中村さんの本を読んでみる。塾で実践している内容は、今見ても全然古くない。例えば三角形の求積・・・(同書125ページ)。
「三角形の面積は、底辺と高が等しいままならユラユラゆれても変わらない」=「イソギンチャク運動」(麦の芽出版『楽しい算数・小5』から引用)と呼ばせたそうだ。求積の基本=量のイメージをきちんと押さえている。
この「ありの教室」のすばらしいところは、いろいろな実践を比較検討し、最良のものを採用する姿勢が見えるところだと思う。1977年の数学教育協議会全国大会(松山)に参加して実践発表をしているのだが、実はぼくもこの年、同じ大会に初参加している。今から30年前、このような子ども本位の塾が確かに存在していたのだ。
先日、湘南BASICで新任教師対象に授業作りの話をしたが、彼らにとって不幸なのは、学びの幅が極端にすくなくなっているということだ。民間教育運動もかつてほど盛況ではなく、学校における教師の管理も強くなっている。具体的な教材研究のデータも少なく、いきおい教科書中心の方法に偏ってくる。
何が正しく、何が間違っているのか吟味検討する素材も方法も持たない教師達とともに対話をもとに新しいスタイルの教材研究方法が望まれる。かつて『ありの教室』で行われていた実践に学ぶことも多いと思う。ネットでその後の中村圭吾さんの軌跡をたどってみた。現在、中村さんは大妻女子大家政学部長として教育に関わる学生を育てている。同じ教育界でご活躍の様子にとても嬉しくなった。