デイリーフレネ

NO 1536 いろんな体験ありまして、いろんな幸せありました 2009.09.15

いろんな体験ありまして、いろんな幸せありました― 様々な体験から幸せをアプローチする


木幡 寛(フリースクール ジャパンフレネ代表)


プロローグ―嫌いな1 0 の言葉


「おーい、こういうのがあるよ。」
中島義道著『私の嫌いな1 0 の言葉』(新潮社)から、1 0 の言葉を紹介する。
「けんちゃん、ミーティング始まるから来てよ。」
「ふぁーい!」
と返事をするも、マンガを読みながらカップラーメンをすするけんちゃん。
「来ないんだったら、『嫌いな1 0 の言葉』を言っちゃうぞ」

中島義道の『嫌いな言葉』の1 0 連発!


「相手の気持ちを考えろよ!」
「ひとりで生きてるんじゃないからな!」
「おまえのためを思って言ってるんだぞ!」
「もっと素直になれよ!」
「一度頭を下げれば済むことじゃないか!」
「謝れよ! 」
「弁解するな!」
「胸に手をあててよく考えてみろ!」
「みんなが厭な気分になるじゃないか!」
「自分の好きなことが必ず何かあるはずだ!」
けんちゃんも含めて、大爆笑! ! !

 フリースクールジャパンフレネを立ち上げて、今年でちょうど十年・・・。たくさんの子どもたちとの出会い、そして別れ・・・。ジャパンフレネをメインにたくさんの体験をしてきた。それら一つ一つを思い出し、つれづれなるまま、書き出してみよう!


PARAT 1 『新聞に載ったことある?』体験


、「Tちゃん!ぼくの絵本の事、新聞に載るんだよ!」と、喜ぶRちゃん8 歳(ジャパンフレネの壁新聞)。
そのことがきっかけになって、「新聞に載ったことある?」という話に発展。


Tちゃんは毎日小学生新聞の上に乗って「ほら、新聞にのったよ!」。
傑作はYちゃんの話。
「私、小学生の時、近くの公園のトイレに入ったら、鍵がさびてて出られなくなっただんだ。そのことが新聞に載っちゃってさあ」(大爆笑)
「どこをどう調べたのか新聞記者が学校まで来て、取材していったの」(大爆笑)
「私ねえ、市で募集している標語に応募して、どう間違えたのか最優秀賞になって市の広報しに載ったことあるよ。」
これはTちゃん。


みんないろんな体験をしているんだね。木幡が初めて新聞に登場したのが、小学校1 年生のときの事...。北見市の市民文化祭の小学校部門の絵画に応募したら、見事(?)金賞!
写真入で北海道新聞の北見版に載った。


絵のタイトルは『レールバスが来た』。今まで機関車しか走っていなかった駅に、初めてディーゼルカーが来て、みんなでそれを追っかけた様子を絵にしたんです。
あの頃はよかったなあ。飛行機が飛んでるのを見て、「飛行機だ!」って、追いかけていたもの...。


しかし、木幡、絵の才能はありません。今考えたら、担任の先生がかなり手伝い、修正したように思うんだなあ。


PARAT 2 甲府行き特急「かいじ」にて...


いやはや困ったものだ。「今の若い者は...」というけれど、「今の年取った者」も困ったものだ。
先日、面談・授業の後、新宿発1 6 時3 0 分の特急「かいじ」に乗る。1 時間
以上列車に乗る時は、ゆっくりゆったりとものを考えたりリラックスしたいので、たいていはグリー車に乗る。グリーン車に乗っている人は、ほぼ、ぼくと同じ考えだろう。


ところが... 。
この日はグリーン車はかなり空いていた。新宿を発車間際、二人の男性(中年一人は、おそらくぼくより年上)、一人の女性( 3 5 ぐらいか)がグリーン車に乗車。ビール・ワインを飲みながら声高に話す。空いているものだから、女性の声が特にキンキン響く。話しの内容は、会社や上司の悪口だ。


立川を過ぎた辺りで、我慢できずおもむろに立ち上がり、
三人連れの席に行く。


「大変申し訳ありませんが、もう少し声のトーンを落していただけませんか。かなり響いて、皆さんの迷惑になっています。携帯電話は車内で切るのと同様に、声のトーンも
落して下さい。お互い大人だから、わかっていただけますよね? 」
女性、無言でうなづく。男性二人も「わかった、わかった」。


これにて一件落着かと思いきや...。車掌が通りかかると、かの男性「グリーン車では話しをしてはいけないのか。しゃべるなってやつがいるんだ。」ときた。


それを小耳にはさんだ木幡、再び三人連れの席に...。
「『しゃべるな』なんて言ってないでしょう。周りの迷惑を考えて声のトーンを落して欲しいとお願いしているんですよ」
「しつこいぞ!おまえ!」
「そういう問題ではないでしょう。ここで言ってもわからないのならデッキに出ますか?デッキに出ろ!どんだけ迷惑になっているかわからないの?」


そばの席のおばさん、「そうよ、うるさくて迷惑よ。」とぼくの発言にうなづく。
「ほら、他のお客さんもそう言っているでしょう。」
「わかったよ!もう、グリーン車に乗らない!絶対、しゃべらないでやる! 」
おいおいおいおい、子どじゃないだから...。
「そうですね。そうおっしゃるのならしゃべらないでくだ
さい。不言実行、言葉より行動で示して下さいね。」
この間、車掌は「やめてください。ケンカになります」
そして、ぼくのそばに来て「ああいう人達と話し合わないで下さい。」


おばさんのフォローもあったせいか、その後三人組はぶつ
ぶつ言いながらも沈黙。途中の駅で降りたようだ。


言わなきゃ波風立たなかったかもしれないが、言っちゃうんですよねえ。これは生涯、治らないでしょう。迷惑をかけるのは、若いも年取っているも関係ないなあ。最近は
「余り関わりになりたくない。言うと逆切れされてどんな__目に会うかわからない。」ということで公共空間の中での迷惑を黙認する人がほとんどだ。


しかし、これでいいのだろうか?対話への道は遠いなあ...。
みなさん、どう思われますか?


PARAT 3 ジャパンフレネ子ども語録


● 言ってないよー、もうないよー


「あ、今日のお弁当のデザートにバナナ入れてくれた。Yちゃーん!バナナ、半分あげようか!」
「今、お腹いっぱいだからいらない。」
「じゃあ、ぼくに半分ちょうだい。」
「木幡さんには言ってないよー。」


- - - - - - - - - -


そして、今日はキムチ料理...。家庭訪問で郊外から帰ってくると、部屋中、キムチの匂い。
「おっ、キムチの匂い!おいしかった?」
「おいしかったよー!でも、木幡さんの分はもうないよー。」


●  お風呂の理由?


「木幡さん、スキーに行った時、一緒にお風呂には入ろうよ!」と、Tちゃん。
「いいよ。どうして?」
「だって、ちんこ、でっかいから」
「バカー!」「変態! 」
女の子達から総すかん...。


● お金はあげちゃダメ!

お料理の片付けも終わって、みんなそれぞれに何かをしていると、本棚の向こうにいる子どもたちに向かって、「Yちゃん!小さい子にお金あげたりしたらだめだよ!」というSちゃんの声。


何かあったのかなと見てみると...。なんとみんなで人生ゲームをしていました。本棚の反対側にいたSちゃんには「お金あげる」という声しか聞こえなかったみたい。
「ゲームならいいか...。」とちゃん。
みんな大笑いでした。
でも、こういう気配りをしてくれているのは、とても頼もしいです。


●  気持ちいいです!


「木幡さん、これあげる!」
8 歳、Rちゃんがくれたのは...、〈きもちいい券〉。
「なあにこれ?」
「気持ち良くさせてあげるよ。」
「どこを? 」
「ここだよ」
Rちゃん、肩と肩甲骨あたりを親指でくいっ、くいっ。
「気持ちいい!」
「気持ちいいでしょう!もし気持ち良くなかったら1 0 0 円もらうからね。」
「誰が? 」
「ぼく」
よー、わからん... 。


PARAT 4 体験学習『飛ぶ教室』i n 花巻


行ってきました!花巻へ!今から3 3 年前に最初に行ってから、これで七度目の花巻訪
問。街は大きく変わりました。かつて花巻電鉄が花巻温泉まで走り、田園風景豊かだった花巻も大きく変貌...、賢治先生も驚いていることでしょう。


今回の目玉は、『なめとこ山のくま』にでてくる〈大空の滝〉までのハイキング、そして賢治祭への参加。直前、賢治祭の中のプログラム『賢治と私』のコーナーで、フレネの子どもにぜひ話しをして欲しいという依頼も来て、何やらおおごとになった「飛ぶ教室」です。


思い起こせばぼくの人生の変えた最初の人物が宮沢賢治です。1 8 歳のとき、(何のために受験勉強しているのだろう?) と受験生にとって、絶対に考えてはいけない疑問にぶち当たりました。その時読んだ『銀河鉄道の夜』が激烈に脳天をぶちのめし、「ぼくもジョバンニやカムパネルラのように生きよう」と思ったものです。


何の疑問ももたず、受験戦争に駆り立てられる自我無き個を拡大再生産しているのは、教育の問題に違いないと確信し、教育学科を選びました。それいらい何度も何度も賢治の作品を読んでいます。


● 賢治祭でのTちゃんの言葉


私たちは、学校以外の学び場で学んでいます。

※ 手直しを頼まれ、上記一行のみ、木幡がつけ加えた。あ
とは、すべてTちゃんの生の文章。

東京の新宿と埼玉の熊谷にあるジャパンフレネでは、時間割など決まっておらず、何をいつ勉強するか、自分で決めます。自由に自分の勉強のスタイルを決めるということは、なんでも自分勝手でいいということではなく、皆で話し合い協調するということが求められます。今回は、教室の中だけにとどまらない「飛ぶ教室」ということでこのお祭りに参加しています。

  
私がこのフレネに通うようになったのは、今年の四月。それまでは地元の中学校に通っていました。しかし「友達もそうするし、みんなもそうするから」に流されて自分の行く先を選んでいいのか?ということと、それからもう一つ、その空間がいつも誰かの陰口を言い合って誰かと衝突していなければやっていけないところだったからです。


別に私自身が出会ったなどどいうことはありませんが、皆が一人の人をのけ者にしているときに、自分もそれに参加しないと同じようなはめになることになります。いつか、とてもやさしく、陰口など言わない私の友達が「あの子はいい子だからネ」と苦笑いしながら言われていました。
私はそんな人たちに流されないよう頑張っていましたが、それではまるで私の居場所がないようでした。その時はなんてヒドイところなんだ?!なんて思っていたのですが、今考えるとその中にもおおぜい私と同じような考えを持っていた人もいただろうし、みんな「競争させられる」環境に適応せざるを得なかったんだと思うようになりました。


フレネでは何かトラブルがあったときには、とことん話し合いますし、第一、何かはわからないけれど暖かい空気が流れています。そこには本当の「ゆとり」があります。
ゆとりができて、なりたいこともたくさん出てきました。植林、絵を描く事、服のデザインなどムクムクやりたいことが芽をだしています。宮沢賢治について調べ学習をすることもその一つです。


私たちはこの祭りに参加するために、童話の読み聞かせなどを行ってきました。宮沢賢治の童話の中では、いつも「誰かが悪者で、誰かが正義の味方」というこことはなく、それぞれの思いがあり、皆平等にあつかわれています。流れている暖かい空気と片方の意見だけ否定しない平等があること、私たちのジャパンフレネとも少し共通するところがあ
るように思えます。


だから、彼の童話もフレネも私_は好きです
ありがとうございました。


● 余談(1)


大空の滝の帰路、これまた賢治の作品にでてくる鉛温泉に立ち寄る。ここは深さ1 m 3 0 の白猿の湯が名物。もちろん、立って入
んです。しかし、混浴...。


「一応、見てから決めようね。」と言っていた女性軍。
覗いたとたん、「だめだ、こりゃ。」と退散。
親父連中が大の字で寝そべっていました...。


● 余談(2)


賢治祭の前、軽く何かお腹に入れておこうとお店を探すが一軒もなし。駅のすぐ近くなのにねえ...。仕方なく、花巻駅の構内へ。
木幡、立ち食いそば屋を発見。迷わず「天玉そば下さい。」、
男性スタッフも「メカブそば」。
女性軍、それを見ていながら他へ行く。


後で聞いてみると、「だって、昨日、わんこそば食べたばっかりでおそば食べる人の気が知れませんよ」
あ、そうか...。男性スタッフも頼んだ後、しまったと思ったんだって... 。
そういや、G君も今朝言っていた。
「嫌なもの見た。」
「なあに? 」
「朝飯のバイキングでそばがあった。もう、みたくもねえ...。」

エピローグ―山手線の電車にて...

池袋駅の山手線外回りホーム上、4~5人の女子中学生がいる。今時珍しいセーラー服。胸には、「福島一中」の名札。おそらく就学旅行できているのだろう。
電車に乗ると、「いち、に、さん、し...。オッケー!全員乗ったね。」
どこに行くんだろうか?聞くとはなしに、聞き耳を立てる。


「巣鴨で地下鉄に乗り換えて、水道橋で降りるんだよね。」
「うん」
水道橋?それなら新宿から総武線に乗り換えた方が電車賃も安いのになあ... 。
「そこから後楽園までどれくらいあるの?」
「歩いてすぐだと思うよ。」


えーっ!後楽園なら池袋から営団地下鉄丸の内線で直通、3つ目なんだよ。よっぽど教えてあげようかと思ったけれど、やめた。
一所懸命彼女達なりに調べてきたに違いない。彼女達は、今、日常を離れ彼女達的「指輪物語」の世界に生きているのだから... 。


今から35年前のぼくの「指輪物語」―初めての内地行き(就学旅行)を思い出していた。本郷菊坂下から乗った初めての都電、銀座裏のラーメン屋、秋葉原で買ったドライヤー... 。
どんな時代にもそれぞれのファンタジーがあり、ひとは日常を離れ異界をさまよう。そこには不安の狭間に未知が垣間見え、その楽しさを知った人は、もはや日常にはもどることはできない。


自分の楽しいことだけを追求していく行き方は、いつでも危険な匂いを充満させる...。
ふと現実に帰る。赤いホッペの女子中学生達...、彼女達の未来に幸多からんことを祈った。


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