デイリーフレネ

NO 2532  2009.09.208 優しい光があるような・・・

● 学校に戻ったA君

次は、大泉学園!大泉学園!お降りの方は、お忘れ物のないようにお降り下さい」
小学生A君の声がジャパンフレネのスペースにこだまする。

電車やバスが大好き。バスは運転士の後ろに陣取り、運転士さんとお友達になる。

 

「木幡先生、おはようございます!昨日は、お父さんと公園に行って遊んできました」

とても丁寧な言葉でお話をする。

 

しかし、学校での生活や学習は、うまくいかない。他の子ども達と同じペースで学習が進まない。嫌な事には、なかなか取り組めない。

担任教師から叱責される。

「どうしてあなたは他の子ども達と同じようにお勉強できないの!嫌な事もやらなきゃだめよ!」

A君は努力した。彼にとって膨大な量の宿題をお母さんと一緒にこなした。夜遅くまで、国語教科書の本読み・・・。しかし、彼の努力も限界に来る。

「おなかが痛いよ・・・。学校に行きたくないよ・・・」

 

A君は、アスペルガー症候群と言われている。周りと同じペースで学習できない。得意不得意のギャップが大きい。コミュニケーションがうまくいかない場合もある。

 

そんなA君、ジャパンフレネに入会し、みるみる元気になっていく。

お散歩の授業で博物館やハイキングに・・・。お料理の授業では親子丼つくりを手伝う。午前の基礎学習は時々渋ることもあったが、自分のリズム・ペースで少しずつ学びのスタイルを作っていった。

 

そして10ヵ月後のある日、突然!

「ぼく、学校に行ってみる・・・」

学校に戻ることが必ずしも良いとは限らないが、彼に学校に戻る元気を与えたのは、一体何だったのだろう?

 

マイペースでの基礎学習、年齢を超えた縦割りの生活(昔の子ども社会)、お料理やお散歩での体験、ボランティアの大学生との交流・・・、いろいろなことが考えられる。

しかし、一番大切なことは、アスペルガー症候群も含め発達傷害と言われる子ども達に対する、大人のまなざしだ。特殊な子どもとして他者と分断して関わるのではなく、障害を個性としてとらえ、共生していく深いまなざしだ。

 

ジャパンフレネには、最近、発達障害といわれている子ども達の保護者からの問い合わせが多くなってきている。そういえば、今から10年前、まだ発達障害が世間に認知される以前、こういうことがあった。

 

● 夏の終わりに―てっちやんの思い出

 

この夏、夏季講習を行った。夏季講習は完全なマンツーマン授業。 8月の終わりに小学1年生てっちやんがやってきた。 学校では、周りの子ども達とうまく行かない、学習も遅れているとのこと・・・。今考えると、軽度発達障害のグレーゾーンだったかもしれない。

 

学校で体験できない授業ということで、算数のゲームをしたり、漢字遊びをしたり...。そんなある日のこと、ふたりで"しりとり"をやった。あれこれ考え、シンプルだが楽しい!

 

 くすり→りす→すいか→......わし→しまうま→まんと 

ここでぼくの番。(よし!引き続き"と"で終わるようにしよう。ここは"とまと"だ)と心の中で思っていたのだが...、書いた文字は...、なあんと"とまん"! 

「あー!ぼくの勝ち! "ん" で終わった!」とてっちやん、大喜び。 

「いけねー!"とまと"って書くつもりだったのに-!なんで"とまん"なんて書いちゃうんだ-!」 

見ていたてっちやンのお母さん、大爆笑! 

 

[ 敗因分析]  

(1)"とまと"と書こうと思っていた。 

(2)同時に"ん"でおわっちや行けないという意識があった。

(3)(1)と(2)がごちやまぜになり、とま...ここまで書いて"ん"の意識が頭をもたげ、一気に"ん"が出て、   "と ま ん"となった。 

この日で夏季講習は終了...,しかしこの後、意外な展開が...。

 

 さて、夏季講習も終了し、9月新学期が始まってからの数日後、「こうなると予想はしてたんですけど...」てっちやンのお母さんが,次のような事を話してくれた

 

9月1日始業の日、家の玄関でてっちやんが、突然立ち往生してしまった。

「木幡先生のところに行く- !」 

どうなだめすかしてもだめで、お母さんとっても困ってしまったそうだ。普段はきちんと学校に行っている彼の中で何が起こったのかはわからない。 

学校とフリースクール、それぞれ人が関わりそれぞれ、授業も行われているのだが... 。 

ぼくはてっちやんのお母さんに、次のようなメールを送った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

今年は全く夏休みが無く、今日も朝6時半には新宿に来て仕事をしているという「女工哀史」のような生活です。 そんな中でてっちやんとの4日間は、実に楽しいひとと

きでした。 

 

彼にとって楽しい事は、まさに彼の"生"に根ざしているのだと感じました。 そして「彼にとって楽しい事は,ぼくにとっても楽しい事なのだ」という25年前の感覚...,

そう!教師になったばかりの時のあの感覚を思い出しました。 

 

大切な感覚を思い出させてくれた事に、とても感謝しています。 子どもから学ぶということはこういうことだとあらためて思いました。 

そうですか・・・。ぼくの所に行くといって立ち往生した話をお聞きし、泣けてしまいました。教師としてとてもありがたいことです。でも、学校に行けるうちは行ったほうがいいと思います。つらいこともあるでしょうが、どうか彼のそのままを受け入れてあげてください。学校は必ずしも行かねばならない場所ではありませんから・・・。

 

 一番の思い出は、やはり「とまん」です。 しりとりで「とまん」なんて言うとは、夢にも思いませんでした。 完全にぼくの負けです。 

写真ができたらお送りいたします。お困りの時はいつでもご連絡してくださいね! 

そうじゃなくても、遊びに来てくださいね! いつでもどこでも応援しています。 では!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

いま、てっちやんは元気に学校に通っている。

そとの陽射しはまだ強い...。

 

A君やてっちゃんののような子ども達は、たくさんいる。

求められているのは、大人の深いまなざしだ。

 

優しい光があるような・・・。

ジャパンフレネは、そういう場所でありたい・・・。

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