NO 1659 号泣で変えろ!己の人生観・・・(3)
号泣で変えろ!己の人生観・・・(3)
―『男はつらいよ』&『北の国から』
Part2 号泣(2)逸脱への道と、ほどよい調和
山田洋二作品とは、全く違う観点で脚本を書いているのは、おそらく倉本聰だろう。
代表作『北の国から』では、これでもかこれでもかという悲劇の連続とどんでん返し・・・。
24回を数える連続ドラマ(1981年10月~1982年3月)の中でも、主人公黒板五郎(田中邦衛)と息子の純(吉岡秀隆)、蛍(中嶋朋子)の前途に未来は見えない。それは、一般ピープルが求める幸せ(金や名誉、物欲など)以外の価値観で生きる現代ではまれにみる五郎の生き方から醸し出されてくる一種の風格・・・。それがこのドラマの基盤になり予定調和を見えなくしているのだ。ドラマスペシャルとして1983年3月~2002年9月まで計8話制作されたストーリーの中でも、自立できないジレンマの中、純と蛍の彷徨は、さらにエスカレートしていく。
五郎の妻令子の不倫により、生まれ故郷の富良野市麓郷に戻ってきた五郎と純、そして蛍・・・。けなげに父を慕う蛍が陰だとすれば、一見能天気で都会への望郷を捨てない純は、陽と言ってもいいだろう。同様に、五郎の従兄弟の息子北村草太(岩城滉一)は典型的な陽で五郎は、陰の役割を担う。このアンバランスが、予定調和をさらに混とんとした世界に持ち込み、それを仲介するのが五郎の義理の妹雪子(妻令子の妹 竹下景子)と五郎の幼馴染中畑木材の経営者中畑和夫(地井武男)だ。しかし、この仲介役の雪子も草太との関係で新たなカオスを生み出し、草太の許嫁吉本つらら(熊谷美由紀)が出奔する事態を生み出す。結局、雪子は不倫相手の男性のもとに去り、さらに五郎は離婚し、元妻令子は、すぐに病気で死んでしまう。
非常識とも思われるストーリー展開、純と蛍が通う分校の涼子先生(原田美枝子)が世田谷区の小学校に勤務していた時、教え子の自殺に関わっていたと報道されるなど、幸せのかけらもない・・・。
号泣は、思いもよらない予定調和からの逸脱が人間の感情を揺さぶるのだろうが、その想像力をも超えていくストーリー展開には、号泣より沈黙がふさわしい。人生を考えることも無くなり、人は声を殺して慟哭するだけである。元妻令子の遺骨の前の五郎の姿がそれにあたる。
連続ドラマの中でぼくが唯一号泣したのは、第23話の次の場面だ。
母の葬儀のために富良野から東京に出てきた純と蛍のくたびれた運動靴を見た不倫相手の吉野(伊丹十三)が二人に新しい靴を買ってくれ、履いていた靴は靴屋のゴミ箱に捨てられた。父五郎は、葬儀に遅れてやってきた。その理由は、航空券を買うお金がなく、一昼夜かけて汽車で来たことを知った純と蛍は、昨日捨ててきた思い出の詰まった靴、父さんが980円のバーゲンで買ってくれた靴を探しに夜の東京の街に駆け出すのだった。
普通は、ここでジ・エンドとなるのだが、話はそうは進まない。街のゴミ箱を漁る二人、靴は出てくるのだろうか?「あった!」となるのが普通の展開。無くて、トボトボ帰る展開もあるのだが、警官(平田満)が現れて「お前ら、何やってんだ?」・・・。
そして、事情を知った警官は、一緒になって探してくれる。ここで号泣!
結局、くたびれた靴はみつかったのかどうか不明のまま、終わってしまう。この程度の予定調和との逸脱がぼくにはふさわしい・・・。警官役の平田満が実にいい味を出していた。
それにしても、小学生時代の純は、母親宛の手紙を無理矢理蛍に出させるために町へやる。手紙を川に落とした蛍は、それを探して迷子になるが、そのことを五郎に隠し、何も言わない。『北の国から』は、単発ドラマになってからも、純と蛍の成長をさらに綴っていくのだが、純の迷走はさらに続いていく。
(続く)