デイリーフレネ

No 1657 号泣で変えろ!己の人生観・・・(1)

号泣で変えろ!己の人生観・・・

          ―『男はつらいよ』&『北の国から』


プロローグ

「この春休みは、『男はつらいよ』全48巻を全部観直しましたよ」

「へ~、木幡さんが一番いいと思うのは、その中でどの作品?」

西麻布の蕎麦屋『たじま』で寺脇研さん(元文部官僚 京都造形芸術大学教授 映画評論家)と飲んでいた時の、一場面。寺脇さんとは、二十数年前からのお付き合い。年に数回、気が向いた時、酒を酌み交わしたり、互いが主宰する会に呼び合う間柄だ。


「これが、ベスト1だっていう大好きな作品があるんですよ。それは、榊原るみがマドンナ役の『男はつらいよ 奮闘編』です」

「ぼくと同じだ!さすが教育者!」

  『男はつらいよ 奮闘編』1971428日封切りの男はつらいよシリーズ第7

 

榊原るみは、ぼくとほぼ同世代。この時の役柄は、青森県から出てきた知的障がいのある少女、花子役。沼津のラーメン屋で主人公の寅次郎(故渥美清)と出会う。


「エギ、ドコダベカ?」と訊かれた寅次郎、「ソコダベヨ」と駅までの道筋を教える。ラーメン屋の主人(故柳家小さん)に言わせれば、「どこかの紡績工場の人数集めで引っ張って来られたのはいいが、仕事もできないし、つらくて逃げだした。どこかの悪い奴にだまされてバーなんかで働かされていたんだろうなあ・・・。かわいそうだなあ・・・」ということになる。


案の定、駅前の交番のお巡りさん(犬塚弘 クレージーキャッツ最後の存命者)につかまり、「どこから来たんだ!」と怒鳴られている・・・。寅が優しく訊きだすと、「アオモリゲン ニシツガルグン アジガザワマチ トドロギ」と答える花子。二人で金を出し合い、切符を買い青森に返そうとするが、沼津駅の改札口ではっきりしない花子、そして哀愁を帯びたメロディーがバックに流れる・・・。号泣、寸前・・・。


駅員の手帳に『かつしか しばまた とらや とらちゃん』とメモ書きして渡す。

振り返り振り返り、跨線橋の階段を上る花子・・・。涙腺崩壊、号泣!


1970年安保の後、ぼくは半年間休学し、田舎の北海道北見に帰り1971年の3月に再上京している。この映画は、東十条オデオン座で観た。封切館ではないので、おそらくそれから数か月後の夏のことだろう。政治というポリシーに失望し、行き先は真っ暗だったぼくに、大学にいることの意味を見出せと言うのは、全く無理な話だった。

結局、花子は驫木(とどろき)の小学校の福士先生(田中邦衛)が迎えに来て、故郷に帰ることになるのだが、この映画を観終わってすぐ、矢も楯もなく驫木に行きたくなり、大学の先輩の家に行った。先輩は不在だったが、お袋さんから1万円を借り、19時頃の急行津軽に飛び乗った。


12時間後、五能線驫木駅に行くために、東能代で乗り換える。東能代駅の待合室で駅そばを食べていたら、「五能線弘前行きの列車が発車します」のアナウンス。どんぶりを持ったままホームから線路に飛び降り、列車の扉を開けてデッキに乗り込んだ。「お客さん!どんぶり!どんぶり!」の声が忘れられない。当時の五能線は、まだ蒸気機関車が走っていて、客車扉は自分で開閉できた。


驫木駅は、無人駅舎。下車したのは、ぼく一人。駅の真ん前を日本海の荒涼とした荒波が打ち寄せる。日本海に沿っている道を歩き、近所の人に映画のロケがあった小学校を教えてもらう。探し当てた小学校は、確かに花子がいて福士先生がいた小学校(深浦町立田野沢小学校)だった。それで、満足だった。それだけの話だ。


そして、ぼくは、大学をドロップアウトし、関西方面へ放浪の旅につくことになる。あの号泣がぼくの人生観を確かに変えた。何が、ぼくを号泣させたのか、当時のぼくにはわからなかった。ただ、何の変哲もなく、教育学科を卒業し、教員になる事が本当に正しいのかどうかを考えるきっかけになった。人の優しさとは何かを真剣に考えた。?


それは、確かに1971年夏のできごとだった・・・。

  それから45年後、思い出して田野沢小学校を調べてみたら、1971年度をもって廃校になっていた。ぼくが訪れた翌年・・・。

                          (続く)

 

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