デイリーフレネ

NO 1660 号泣で変えろ!己の人生観・・・(4)

号泣で変えろ!己の人生観・・・(4)

―『男はつらいよ』&『北の国から』


Part3 号泣(3)逸脱でも変われない人生観

 

その後の純は、五郎の幼馴染笠松みどり(林美智子)の息子正吉(中澤佳仁)と一緒に五郎が作った丸太小屋に住むことになる。しかし、純の不始末で丸太小屋は全焼。火事は、正吉のせいとされる。さらに東京から遊びに来た少年のパソコンの本を盗もうとした純を思い、代わりに本を盗んでやった正吉。その東京の少年と正吉でいかだ下りをしていて、少年がいかだから落ちるのだが、本の盗難、いかだからの転落、そして少年の衣服を誤って持ってきたことも全て正吉のせいにしてしまう。こういう、情けない純がその後も一貫していて、最後の最後までハッピーエンドが見えてこない。


単発ドラマとなってから最も有名な号泣シーンは、「北の国から'87初恋」のこの場面だろう。純の初恋の相手大里れい(横山めぐみ)一家は、冷害のため夜逃げ。純は、叔母の雪子を頼り、東京の定時制高校に行く。父五郎は知り合いの長距離トラックに頼み、東京まで乗せてもらうことに・・・。トラックを追いかける五郎と蛍・・・。れいからプレゼントされたポータブルカセットデッキで尾崎豊を聴く純のイヤホーンを強面の運転手(故古尾谷雅人)が引っこ抜いて、話し始めた。

 

運転手「しまっとけ」

純  「―何ですか」

運転手「金だ。いらんっていうのにおやじが置いてった。しまっとけ」

純  「あ、いや、アノ、それは」

運転手「いいから、お前が記念にとっとけ」

純  「いえ、アノ」

  運転手「抜いてみな。ピン札に泥がついてる。お前のおやじの手についた泥だろう。オラは受け取れん。お前の宝にしろ。貴重なピン札だ。一生とっとけ」

 

  純が封筒を開けてみると、父五郎の指跡が付いている二枚のピン札が・・・。

  純、号泣!心を突き刺すような父の優しさ・・・。しかし、東京に行った淳は・・・。

叔母雪子の家に住み、職を転々とし、父の優しさのこもった一万円札盗難をきっかけに傷害事件を起こしてしまう。傷心し疲れた身体で富良野に帰ってくる純。しかし、その後の純の人生も、不運続きだ。


再び上京し知り合った女性を妊娠させ、その娘を預かっている豆腐屋のおやじ(故菅原文太=以前勤務していた学校で一時期理事長をしていた・・・)になぐられてしまう。その責任を取るため、父五郎は、丸太小屋製作のためカナダから取り寄せた材木を売り払い、100万円を工面する。全て純が悪いわけではないが、ストーリーはこれでもかこれでもかというように純を責め立てる。号泣の中でも変われない純は現代の若者像を象徴しているかのように見える。


けなげな蛍の運命、これまた、悲劇の連続・・・。

『北の国から'89帰郷』で蛍は病院で働き、旭川の看護学校定時制に通う。通学列車の中で知り合った予備校生和久井勇次(緒方直人)と恋仲になるが、シリーズの中で蛍が最も美しく輝いていたのがこの回だ。列車の中でのはにかみ、富良野の駅で別れる時の手の仕草、どれをとっても美しい。控えめな愛を表現することができる稀な役者だろう。

人生の終焉を迎える年になると、こういう美しさを眺めることも予定調和からの逸脱になるのだろうか・・・。青春とは若さで語るものではないというけれど、今一度青春に邂逅することは、予定調和を突き崩す原動力になっていくに違いない。


勇次の故郷、やがてダムに埋没する村でのファーストキス・・・。一本の木に二人のイニシャル『H Y』を彫る勇次の後ろにそっと抱きつく蛍。しかし、勇次は東京の予備校に行くために富良野を去らなければならない。

別れの日、取り巻く親戚の群れを駅舎の窓から眺めている蛍。プラットホームにいる勇次に(がんばって)・・・、(わかった)と勇次。唇の動きだけで、この言葉がわかる。

 

とにかく、『北の国から'89帰郷』での蛍の登場場面は、号泣の連続・・・。それでも蛍は、なかなか幸せになれない。札幌の大病院の医師との駆け落ち、そして子を宿す。

これでもかこれでもかというように苦難が蛍に襲いかかる。

 純と蛍の苦難については、これ以上書かない。号泣がこれ以上続くと、逸脱の意思も途絶えるほど心が凍って来る。蛍が駆け落ちした先は、根室本線の落石駅。寂しい名前だ・・・。

                      (続く)

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