小説『プライドと悔恨』―北野 洋の場合(3)2018.11.08
Part 2 北野23歳の夏―親は一緒に楽しみ、助力を忘れなかった
授業のなかで、数えきれないほどの楽しい経験をしてきました。
理科では予想をたてて、その予想について意見を言うのだ。五時間もつづけて意見をかわしあったことも何度かあった。内容は、いま思うとたいしたことではなかった。たしか、「ジンタンは電気を通すか」ということだったと思う。通すという人と通さないというひとが、ものすごい勢いでいいあう。
私もそのなかの一人。汗びっしょり、声はかれかかり、一時間目から帰りまで議論が続いて、もうクタクタ。でも、なんと楽しかったことか。〇×をはっきりさせるためにも、大勢で意見をかわしあうことがどんなに大切か、よくわかった。答えがあっているといっても、なぜそうなるのかがわからなければ、わかったことにはならないのだ。私たちはロボットではないのだから、答えだけを教えてもらっても満足しないのだ。
(N子5)
新任としての三か月が過ぎた。
「北野さんは、新任だからね。しばらくしたら、わかってくるわよ」
しかし、北野は変わらなかった。頑なに自己のプライドとポリシーを守った。
北野には、この夏休み、大きな計画があった。大学の同級生で大親友の山梨県教員と学校間交流を計画していたのだ。『わり算山の探険』で埼玉県と山梨県の県境にあるわり算山の頂上で互いの子ども達が偶然遭遇し、友達になるという設定。保護者会でその話を説明し、大賛成をもらっていた。
「山梨県の子ども達の学校に行ってみる?」
子ども達に話したら、
「え~!わり算山って本当にあるんだ!」
「行きたい!行きたい!絶対、行きたい!」
クラス全員で山梨県の六郷町に訪問することが決まった。
問題は、学校・・・。校長に話したら、当然、いい顔をしない。
「何かあったら、誰が責任を取るの?」
関係ないPTA会長まで出張って来て、「こういうことをやりたくても、できない先生がいるからねえ」
しかし、保護者が素晴らしかった!
「これは、学校行事ではありません。夏休みに行う保護者主催の行事で、PTAとも関係ありません。何かあったら、その責任はすべて親が取ります」
その夏、北野と子ども達40名、そして保護者10名が山梨県を二泊三日で訪問し、それはそれはめくるめくような日々を過ごした。
北野洋23歳の夏・・・。
―続く―