デイリーフレネ

No 1665 小説 『プライドと悔恨』―北野 洋の場合(1)2018.11.6


プロローグ


私は、いままでにたくさんの授業を受けてきました。その中で心に残っているものは、楽しくおもしろくよくわかる授業と、おそろしいような授業の二種類です。


おそろしいような授業・・・、それは本当に私にとってこわいものでした。勉強がわからない、ピシッと先生の手が飛ぶ。計算がなかなかできない、先生はその子の頭をげんこつでドンドンたたきながら、大きな声でどなりちらす。クラスのほとんどがわからないというのに、ポンポン次へ次へと進んでしまう。よけいわからなくなってしまった私たちに、「お前たちは、授業中、何を聞いているんだ!」とどなる。小さくなっている私たち。教室は、いつもシーンとしている。


こんな授業・・・。わからなかったら、わかるまで教えてくれればいいのに!わからないときは、教えるかわりにひっぱたけばいいの?

                         (N子 1

 

昔の教え子が書いた文章をしみじみと読む。今から40年前の教え子だ。

ああ、そんな時代もあった。首都圏に近い埼玉県のJ小学校。新任だった北野は、怖いもの知らずの無鉄砲。おかしなことはおかしいと言い放ち、ダメなものはダメと断罪した。

 

今でも鮮明に覚えている。辞令を受け、新任としてJ小学校に赴任。3年生の担任が決まっていた。北野も含め4クラスの担任が集まっての学年会の席上、学年主任がこう言った。

「あなたのクラスの分も取っておいてあげたからね」

目の前に積み上げられた業者テスト・・・。                

「これ、どうしても使わなければいけないんでしょうか?」

長い沈黙・・・。

「まあ、買ってしまったものだからねえ」

「じゃあ、一学期だけ使ってみて、使えないようだったら、ぼくのクラスは使わないということでよろしいでしょうか?」

再び、長い沈黙・・・。

「・・・、一学期やってみて、判断して下さい」

 

以来、北野は業者テストを使ったことがない。

市販の業者テストで学力評価するということは、とりもなおさず、<業者テストの学力観に身をゆだねる=教科書通りの授業をする>ことにつながる。それは、断じてできない相談だった。与えられた教科書と赤本(教科書指導書)だけで授業をすます教師には、絶対にならない。教材は自分で調べ、納得いったものしか使わない。必然的に評価のためのテストは、自前で作り減点法ではなく、加点法をとる。良い解答には加点するので、100点満点のテストで100点以上の点を取る子が多数出てくる。いいではないか。それでいいではないか。

 

おかしなことはおかしいと言い放ち、自己決定と自己責任を持って仕事をする。これが、北野のポリシーであり、それを曲げることは自己の持つプライドを放棄することになる。

北野洋(きたのひろし)23歳の春・・・。


ある授業で絵をかいて遊んでいた子が、数十回、先生になぐられたことがあった。絵をかいていたのは、いけないことだ。でも、絵をかくくらいたいくつな授業をしていたのはだれ?そのたいくつな授業をしている先生が、楽しいことを求めている私たちをぶつなんてひどいと思う。


生徒が先生に暴力をふるうと大問題になるくせに、先生が生徒に暴力をふるうのは、そんな大問題にならない。でも、私たちも、そういう勝手な先生のペースにのってしまっている。なんか自分がすごくなさけなくなる。

                      (N子 2

                        ― 続く ―

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