NO 1673 阿部進への道 ― 過去への課題(1) 2018.12.05
プロローグ
― 沖縄に行った時のことです。沖縄独特の亀甲墓というのがありますよね。その前に小さなお墓があるんですよ。土地の人に「あれは何ですか?」と訊いてみると、「あれは親不孝者の墓です。特別な事情があり親より先に死んでいった者は、親不孝なので同じ墓には入れません。その者たちの墓を別に作っているのです」
そのことを聞いた時、私は愕然としました。親は子を思い、子の幸せを願う。その願いが通じぬまま親より先に亡くなってしまった子。私は、どっと涙がこぼれてきました。皆さん、長生きして下さい。親より先に死んではいけません。これが私のお願いです。
(教育評論家 阿部進)
2010年7月 甲府市における授業づくりの会『BASIC』での講演
「木幡さん、昨日、父が亡くなりました・・・」
2017年8月11日、35年来の友人、阿部昌浩さん(麻布科学実験教室室長・阿部進氏長男)からの電話に驚愕・・・。カバゴンの愛称で知られた教育評論家阿部進、2017年8月10日死去、胃がん 87歳。
教育評論家 阿部 進さん カバゴンは子どもの味方
テレビや漫画、何より子どもの味方だった。「カバゴン」の名は、審査員を務めた「ちびっこのどじまん」の視聴者の10万枚以上のはがきから選ばれた。
出発は1950年、川崎市の小学校の教員としてだ。教室で新聞紙を丸めてチャンバラする姿を見た元編集者の高山英男さん(86)は「妙に子どもと波長が合っていた」と言う。
遠足バスで歌謡曲の大合唱、小遣いケチって漫画の回し読み・・・。高度成長期の「現代っ子」を描いたドキュメント本のシリーズはベストセラーになった。
65年に教員をやめると教育評論家としてテレビの世界へ。PTAに「教育上よくない」と批判された漫画「ハレンチ学園」がテレビ化されると、番組の最後に登場し「来週も見てね、ワオーッ」と呼びかけた。
だが子ども文化はテレビからネットに移っていく。100キロ近い体が次々病気に襲われたのも、そのころだ。糖尿病、骨折、角膜ヘルペスでの失明、胃がん。
それでも講演を続け、1月にこう語った。「学校が知らない新しい『現代っ子』がいるはず。それを書いた本を読みたい」。講演会を主催したフリースクール代表の木幡寛さん(67)は「子どもの現実から出発し、子ども主体で考える先駆者だった」と話す。
亡くなる直前まで、家で小学生4人にシャボン玉や空気鉄砲の実験を教えていた。棺にはその1人からの手紙が収められていた。「すごく楽しかった。もっともっと教えてほしかったです」(編集委員・氏岡真弓)
―朝日新聞 2017年9月9日夕刊『惜別』より
奇しくも2017年1月7日、湘南学園小学校を会場に主宰した教育考古学会が、阿部進最後の講演になった・・・。
― 続く ―