デイリーフレネ

NO 1650  レールを外れることさ・・・  2013.04.24

ある県の教育研究集会でのこと。ぼくは、だいたい第4分科会(算数・数学)に共同研究者として呼ばれることが多い。最後のまとめの発言を求められたもう一人の共同研究者が「私の授業作りの指針・道しるべは、学習指導要領に書かれていること全てです。皆さんもこれを指針にして下さい」と発言し、失笑をかっていた。

 

ぼくは、学習指導要領とは全く対極のところで授業を創ってきた。お上の言うことが正しいのかどうか、きちんと吟味し、使えないものは使えないでいいではないか・・・。大体、学校は国民を育成することを目的にしているので、授業の内容が『役に立つ=有用性』に立脚しているかどうかに規定されている。学習指導要領=(あるいは→)教科書に縛られている教員は、その範疇(要領に規定されている有用性の中)で授業を作ろう(創ろうではない)とする。例えば小1のたし算7+6の指導を縦書きの筆算で教えない。学習指導要領では、2年生で教えることになっているからだそうだ。そして、市販テストで子ども達の評価を行なう。市販テストで評価するということは、市販テストの学力観で子どもを評価するということに気づかないのだろうか?実にくだらない・・・。

 

先日、六本木のミッドタウンで行なわれている『デザインあ展』を観てきた。授業作りのヒントがたくさんあった。特に面白かったのは、『ごちゃまぜ文庫』。木で作った本の背表紙に書かれているタイトルを単語で二つに切断し、ばらばらに組み立てられるようになっている。例えば、『走れメロス』を『走れ』と『メロス』にわける。たくさんある木製の本をそれぞればらばらにし、適当に組み立てると全く違うタイトルの本になるというわけだ。

 

『海底二万マイル』をばらばらにしたものと『おむすびころりん』のばらばらを合体させると、『おむすび二万マイル』。笑っちゃった!『走れメロス』も解体され、『走れじいさん』になっていた。

赤いろうそくとじぞう・ガリバーこわい・我輩はロバの耳・ロミオと赤おに・こぶとり合戦・はだかの二十面相・王様の耳は無情・銀河鉄道のちゃがま・・・。無尽蔵にタイトルができる。

さっそく、これを使った授業レシピを考えた。簡単に言うと、本のタイトルをテープに書く→タイトルを二分割する→二つをばらばらにする→上と下を合体させ新たな本のタイトルを作る→どんな内容なのかお話のあらすじを作る・・・。

 

学習指導要領というルートから逸脱できない教員は、この手の授業を一生作れないだろうし、創ろうともしないだろう。単なる有用性だけに視点を置くのではなく、面白さやハプニングをベースに教室をびっくり箱にしていく視点が求められる。

 

こんなことを公立学校校長のY君に電話で話したら、「木幡さん、それに似たのを村田さんが書いていましたよね。デペイズマンですよ」とのこと。全く同じではないが、思い浮かべた単語二つを組み合わせて「○○は○○だ」というお話を作る実践を思い出して調べてみた。『ことば遊びの鏃(やじり)』と題し、『現代詩手帖』1976年5月号(『飛べない教室』1977田畑書店に収録)に書いていた。ああ、師匠の故村田栄一は、40年前にこんなことを考え実践していた。やはり先見の眼ががあったなあと嬉しくなった。

 

『デペイズマン』は、シュールレアリスムの手法の一つ。

※ ウィキペディアには次のように書かれている。

「この言葉は、もともとは「異郷の地に送ること」というような意味であるが、意外な組み合わせをおこなうことによって、受け手を驚かせ、途方にくれさせるというものである。文学絵画で用いられる」

 

そうなんだよなあ・・・。途方にくれさせる。子どもの中に事件を引き起こす。亀裂を創る。ダイアローグは、そこから生まれてくる。師匠村田栄一の言っていたこと、彼が見つめていたもの、いやもっと先にあるものがようやく見えてきたように思う。教師もレールをはずれなきゃ・・・。

 

ケサラ ケサラ ケサラ

隠してた本当の夢は

涙と歌 道連れにして

レールをはずれることさ

                by リクオ

 

そして村田栄一は、こう言っている。

「ことば遊びが放つナンセンスの鏃に付着している<毒>の効用ということをもっと考えてみたいと思っているところだ」(上記『現代詩手帖』より)

 

<毒>学校にとっての毒、教育にとっての毒・・・。指針は、ここにある。

 

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