デイリーフレネ

VOL1488 2008.04.21

● 水道方式による社会科の学習の素案

以前から算数の「水道方式」のように素過程から複合型に進む社会科の学習は可能かどうか考えている。


【水道方式】
1958年、数学協議会の遠山啓・銀林浩によって考え出された計算練習の理論のこと。子どもたちができるだけ少ない練習量で、できるだけ確実に計算力がつくように工夫された計算練習の方式で、谷川(基礎の足し算100問=素過程)→水源地(222+222型=基本形)→繰り上がりのある複合型・特殊型・退化型など水道管を水が流れるように膨大な計算量を型分けし、その計算指導の道筋を示したもの。
 名前の由来は、その指導の流れが都市の「上水道の設備」に似ているので、マスコミが「水道方式」と名づけたことにある。
 ここ最近の算数の教科書は、ほとんど「水道方式」の理論を参考に編集されており、国際的にも日本の「水道メソッド」の名で有名。

 

社会科の授業は、地理・歴史・公民・政治経済・倫理などに大別されるが、基本的に地理からスタートする(小学校では学校の周りから町や市、そして県・国へと拡大されていく)。しかし、それらの学習は、単に地図学習や郷土の特長を中心にした暗記モノに留まる傾向がある。

ぼく自身、小さい時から地図を読むのが大好きでまだ見ぬ世界の国々を旅していた。これは想像力を働かせる意味でとても楽しかったし、世界の国々や主要都市の位置関係も理解できるようになった。

しかし、社会科の学習は何故地理をスタートにして行われるかは、きちんとした説明がないし、おそらく教員もそのことを理解しないまま仕事のノルマとして教えているのだろう(と思う)。

大学生の時、書店でふと手に入れた『肉食の思想』(鯖田豊之 中公文庫 1966初版)は目からウロコ的カルチャーショックだった。気候風土が食習慣を決定付け、それが人間の生き方や宗教や思想に至まで影響していく・・・。ヨーロッパ思想の核心にせまり(同時に日本型のモンスーン地帯との比較も行われる)名著だとおもう。

 

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※ この本は現在中公文庫でも手に入る。

なるほど、何故、地理学習が社会科のスタートになるのかということが、この本で初めて理解できた。何らかの因子により気候や風土が決定付けられ、それらがベースになり人々の生活の営みも決定付けられる。これらを大河の源流と考えれば、いくつもの源流が集まり人々の思想や宗教を形作る。民族・国家、政治経済・・・、そして歴史の形成・・・。

ここでは、地理学習を水道方式における素過程として位置づけ、それらの基本型や複合型がどのような授業になるのかを考えて行きたい。

授業作りとしては、次のような流れになるだろう。

(1) 素過程としての地理学習の可能性
・ 気候風土をベースにして、どのようなラインナップが考えられるか?
・ 衣食住の授業のラインナップとそれから派生する授業のラインナップ
※ 派生するものとしては、例えば「清潔文化の誕生」、「冷たいおいしさ」、「トイレの文化史」、   「風呂の文化史」など

 

P4220023.JPG(2)水源地(基本型)としての政治・経済・歴史
・ 古代ギリシャ国家やローマ帝国、インドのカースト制などを典型例とする
・ 読んでわかることや通史は授業化しない
・ ヨーロッパとアジアの比較
・ 世界→日本という流れ、あるいは同時代並列

(3)複合型・特殊型としての現代史や現代社会の諸問題
・ 民族問題や人種問題の原型(古くは奴隷制、新しくはスーダンにおける人種問題など)のライ   ンナップ
・ 天皇制の諸問題と現代日本史、部落の起源などのラインナップ

以上のような流れの中で極力教えることを少なくし、子どもの想像力をかきたてる授業の体系化が望まれる。

今まで「昨日の夜、何を食べたか?」、「焼肉のたれ-ジャンの秘密」、「窓からのぞいたヨーロッパ」、「清潔文化の誕生」、「冷たいおいしさ」、「売られていく子どもたち」、「放送禁止歌」、「水と緑と人間」など多数の授業を創ってきたが、ラインナップには程遠い。

今後の研究会の中で長期的展望を出していきたい。

日々の状況や教育エッセイをJF代表・木幡が執筆。
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