デイリーフレネ

NO 1632 『沖縄』という素材(2) 2012.09.20

Part 2 ケービン跡を歩こう!―これが教師の事前学習だ!

 

体験旅行をする時、以前はかなり綿密な学習を行ったが、教師のお仕着せになりやすい。教師は、とかく教えたがりだ。沖縄戦とはなんだったのか?米軍基地はなぜあるのか?それらに興味関心を持つことは悪いことではない。しかし、沖縄の捉え方を一面的に、しかも教師主導で行うのは、いかがなものか?

 

以前、学校に勤務していた時、ある保護者がいみじくもこう言った。

「沖縄の基地問題の事前学習と言ってもねえ・・・。近くの入間や福生の基地のことも知らないんじゃない・・・。毎日、米軍や自衛隊の飛行機が上空を飛んでいるのに、全く無関心」

 

その通りなんです。普天間の基地問題を主体的に捉えたいなら、まず、入間や福生の基地問題からスタートし、普天間にどうリンクしていくかを考えるアプローチもある。

 

最近は、事前学習する場合、ぼくの興味や疑問、そして自らやってみたいことを授業化し、提案することにとどめている。

 

一例をあげよう。

『失われた鉄道を求めて』宮脇俊三(文春文庫)の冒頭に沖縄軽便鉄道与那原線の話が出てくる。先の沖縄戦で消滅した軽便鉄道だ。これを最初に読んだ時、「この鉄道跡を歩いてみたい!」という衝動に駆られた。興味関心、そして疑問から授業・学びがスタートする。今でこそ『ケービンの跡を歩く』金城 功(沖縄文庫 ひるぎ社 1997)という丁寧な解説書があるが、ぼくがケービンに興味を持った1990年当時、どのガイドブックにも沖縄軽便鉄道の話題は、載っていなかった。ならば自分で調べるより他に手はない。

 

まず、昔の25000分の1の地図を求めるため、以前も利用した地図専門出版社、神田の昭文社へ。しかし、昔の地図はもう扱っていないとのことで九段下の国土地理院へ。大正年間の『那覇』25000分の1の地図をゲット!確かに軽便鉄道与那原線がわかる。マル秘の丸印が押されている。軍事機密だったのだろう。同時に現在の『那覇』25000分の1地図も手に入れ、大正年間の地図と対比してみる。以前、ケービンが走っていたところだろうと想像できる箇所が幾つかある。これは、もう行くっきゃない。

 

当時勤務していた自由の森学園高校の修学旅行の行く先の一つが『沖縄』だったので、

生徒にミニ授業して歩くことにした。

 

【授業の流れ】

 

「沖縄に無くて東京にはあるもの、あるいは経験できることはなんだろう?」→雪 鉄道→「何故、沖縄には鉄道がないのだろう?」→「もともとなかった」「以前はあったが何らかの理由で無くなった」→「それを確かめるには、どうすればいいだろう?」→「昔と現在の地図の対比」→大正時代の地図には、鉄道の地図記号が・・・→「鉄道は何故無くなったのか?」

 

ここから、沖縄戦について考えていく。沖縄概史、文化、詩人山之口獏、自然、沖縄本島と八重山などなど、話題はシンキングマップ的に増えていく。

 

さて1991年6月高校生5名と沖縄軽便鉄道与那原線の跡を地図を対比しながら歩いてみた。梅雨明けの沖縄の太陽。暑い!真玉橋→国場→一日橋・・・、この辺は鉄道跡が市街化され、わからない部分も何箇所かあった。ただ真玉橋や一日橋付近では鉄橋の跡が残り、銃弾の痕跡も認められた。宮平から大里に向かう農道は一直線で明らかに鉄道跡だとわかる。周りは一面のさとうきび畑。

 

大里から与那原に至る鉄道跡は、溝になったいたり、民家のすぐ傍の道になっていたり・・・。

「おばあ、昔、この辺に鉄道が通っていませんでしたか?」

お店の留守番をしていたおばあに聞いてみた。

「あったさあ。ほら、この店の前。あんたらが立ってる所さあ。あんたらどこから来たの?えっ、東京からわざわざ。あいやー!ちょっとお茶飲んでいきなさい」

 

おばあの話によると、店の前の細い道が鉄道跡で今の与那原農協の建物が旧与那原駅だそ

うだ。戦災で焼け残った与那原駅の鉄骨を再利用して与那原駅ができた。行ってみなければわからない。聞いてみなければわからない。

 

 それ以来、計4回沖縄軽便鉄道与那原線の跡を子ども達と歩いた。年月を経ると新たな

発見もある。

「あれー、確かこの辺に銃弾の痕跡がある鉄橋の跡があったんだけれど・・・」

区画整理や都市整備でかつての貴重な戦争遺産一日橋付近の鉄橋跡は、暗渠になってい

た。農道の周りのさとうきび畑も養鶏場になっていたり、家屋が増えたり・・・。

あのおばあも、今はもういない・・・。

                                                  (続く)

 

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