NO 1645 時代の中のあなた―見えないものを見るために、そして遠くまで行くために・・・(4) 2013.04.12
本日は、フリースクールジャパンフレネ2013年度のオープン!新宿から雑司が谷に移転し、心機一転!メリハリもってやっていきます。
雑文の続きです。
Parat 3 百年食堂と大盛りと携帯―『大室屋』が休業している訳
椎名誠の『にっぽん全国 百年食堂』(講談社)を読んだ。この本は、旨い・まずいは別にして、とりあえず 百年続いている全国の食堂を訪ね、そのお勧めメニューをとにかく食う!というルポルタージュだ。しかし、旨い・まずいは別といっても、旨いから百年続いたという法則も認めている。北は北海道から南は九州・沖縄まで全国津々浦々、食いまくりの旅。
福島は浜通り『大室屋』という食堂に繰り出したご一行。ここの名物は、大海老五本の天丼、皿の上にはみ 出すくらいの丸い座布団が乗っている感じの大盛りカレー!二階の部屋の板壁には、「めざせ三割、三本、三盗塁」「絶対優勝」などという落書き!本文から、少し引用してみよう。
「部活が終わった高校生が自転車に乗って夕日のなかをみんなでいっせいにこの店にむかって走ってくる姿が見えるようです」
しかし、主人の熊川さんに聞くと、むかしは学生で二階はいっぱいだったけれど今はめったにこないという。
理由は「携帯電話」だという。なんだか謎の発言だ。
よくきいたら理解できた。いまの学生はみんな携帯電話を持っているからそれにかかるお金で食堂で大盛りを食う小遣いがない。カップ麺ぐらいですまさえているらしい。携帯電話のために学生たちは自分らの貴重な青春の思い出となる五本海老の天丼体験を失ってしまったのだ。(中略)
あまりの気前のよさに経営について聞いた。
「人があまりいないところです。だから材料はみんな本物のいいものを使って採算なんて考えないでとにかく客に来てもらう。そういう考えなのです」
どこかふっきれた、というか、ヤケクソというか、なかなか味わいとい含蓄の深いご主人だった。
『にっぽん全国 百年食堂』P167椎名誠(講談社)
しかし、現在、大室屋は営業していない。そのわけは、巻末データをみて理解できた。
【福島】
大室屋:大正三年(一九一四年)創業/四代目/福島県双葉郡浪江町権現堂下続町七番地 大正三年にミルクホールとしてオープンし、小料理屋を経て食堂となる。当時のモダンな洋館風の建物を改築した店舗は、実にユニーク。エビが五本のる天丼と、ボリュームたっぷりのカツカレーが名物。
* 注/福島第一原発の事故により現在は休業中です
高校生は携帯電話で五本エビの天丼を失い、大室屋は原発で店を失った。
こんなことは、両方とも許せねえ!!
暑い夏がそこまで来てる
みんなが海へくり出していく
人気のない所で泳いだら
原子力発電所が建っていた
さっぱりわかんねえ、何のため?
狭い日本のサマータイム・ブルース
熱い炎が先っちょまで出てる
東海地震もそこまで来てる
だけどもまだまだ増えていく
原子力発電所が建っていく
さっぱりわかんねえ、誰のため?
狭い日本のサマータイム・ブルース
寒い冬がそこまで来てる
あんたもこのごろ抜け毛が多い (悪かったな、何だよ)
それでもテレビは言っている
「日本の原発は安全です」
さっぱりわかんねえ、根拠がねえ
これが最後のサマータイム・ブルース
(中略)
電力は余ってる、
要らねえ、もう要らねえ
※ 以下、四回のリフレーン
『サマータイムブルース』
オリジナル歌詞: E. Cochran & J. Capehart 替え歌詞 : 忌野清志郎)
エピローグ
最後に中島みゆきの『時代』を挿入しようと思ったが、ためらった。時代の変遷、その中にある数々のドラマ、それは、
そんな時代もあったねと
いつか話せる日が来るわ
あんな時代もあったねと
きっと笑って話せるわ
だから今日はくよくよしないで
今日の風に吹かれましょう
などと軽く歌えるものではない。特に東日本大震災や福島の原発問題では・・・。
時代は変わる。しかし、終わらない。谷川俊太郎はこう綴る。
『そのあと』
そのあとがある
大切なひとを失ったあと
もうあとはないと思ったあと
すべて終わったと知ったあとにも
終わらないそのあとがある
そのあとは一筋に
霧の中へ消えている
そのあとは限りなく
蒼く広がっている
そのあとがある
世界に そして
ひとりひとりの心に
(谷川俊太郎 3月の詩 朝日新聞 2013.3.4より)
―終わり―